うつ病
うつ病とは
うつ病の主たる状態は心身のエネルギー低下です。そのエネルギー低下によって、個々に、さまざまな症状がバリエーションを持って生じてきます。例えば、不眠、食欲低下や食欲過多、倦怠感や疲れやすさ、気力低下、思考機能の低下、動作や話し方の緩慢さ、自責感、生きていても仕方ないと感じてしまうなどの状態、持続する抑うつ気分や物事への関心の低下、楽しめなさなどの症状があります。
心身のエネルギー低下を生じる疾患は他にもあります。
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・精神科疾患
(うつ状態を呈する状態、双極性障害のうつ状態) - ・慢性疲労症候群
- ・甲状腺機能低下
- ・睡眠時無呼吸症候群
- ・糖尿病
- ・がん
- ・その他の身体疾患
- ※身体疾患とうつ病とが合併(複数の状態が別々の原因によって生じていること)することもあります。
原因としては、諸説があります。例えば、脳の神経細胞と神経細胞の間の隙間で情報伝達のための物質、神経細胞物質(ノルアドレナリン、セロトニン、ドパミンなど)のうち、気分に関係する物質のバランスが乱れているという説や、ストレスに関わる脳の神経回路の乱れ、脳の神経を活性化させる物質(脳由来神経栄養因子)の働きの低下が関係するとも言われています。このことが意味するところは、うつ病では脳の機能低下が生じているということです。
診断
診察の中心は医師の観察と問診です。受診しようと思った理由、きっかけ、これまでにかかったことのある病気、簡単な生育歴、ご家族の構成、いっしょに住んでいる方、現在の生活状況・仕事の状況、症状などをうかがいます。その時、医師の方はその答えの内容だけを聞いているわけではありません。問いへの反応の仕方、動き、話し方、文脈のもっていき方、判断の仕方、人との関係の持ち方など、その答えに付属するさまざまの状態に関心を向け、その方のご様子を観察させていただいています。
そして医師自身が持っている疾患や健康さについてのデータベースと複合的に照合しています。その上で、現在の状態に最も妥当で安全な診断の選択、まずしなければいけないこと・できることは何かの選択をします。身体疾患の可能性も考えられる場合には、内科などの診療科への受診をお勧めすることもあります。
うつ状態について
うつ状態と診断される場合が多くあります。抑うつ症状が顕著であるが、うつ病以外の疾患の可能性を視野に入れている場合には、うつ状態という状態名による診断で表現します。
その場合には、医師は、双極性感情障害に罹患している可能性や、その方の性質の中に双極傾向があること、また、その方の性質とストレス要因との関係などを念頭に置いています。
治療と治療期間
もし、うつ病である可能性を診断した場合、日々の中でプチ療養の時間を確保することで現在の生活状況を維持できるか、あるいは、大規模な負荷軽減や休業が必要かということを判断しなければなりません。
なぜならば、脳の機能低下が生じているわけですから、治療としては、まずは、脳を休ませることが必須です。そして、最も大切なことは状態をこじらせないことです。
薬物療法
主に、抗うつ薬や気分調整薬と呼ばれる薬物を用います。うつ病という診断であれば、ご本人に合う薬を1つか2つくらいは使った方が回復が早いと経験している医師が多いと思います。特に、不眠が生じている場合には、睡眠導入剤を処方することもあります。こじらせずに早めに治療開始できた場合には、3ヵ月程度で、一定の安定に近づくことが多いですが、回復したからと言って、再び負荷を急に増やしますと、再発・再燃を繰り返します。
薬物療法は、回復期にも続きます。
入院による治療
家庭で上手に療養することが困難であったり、ものの見かたが否定的になる悪循環から抜け出すことが困難であったりする場合には、入院による治療になります。特に、希死念慮(解説1)が続いたり、強い希死念慮が生じたりしている場合には、修正型電気けいれん療法(解説2)といった治療法があります。軽症から中等症程度の方の入院加療には仁大病院ストレスケア病棟への入院をご提案しています。修正型けいれん療法は、私どもの医療法人内で行えるところがないため、私どもがいつもお世話になっている医療機関や、ご本人やご家族が希望される医療機関にご紹介いたします。
- (解説1)希死念慮
- 「死んでしまいたい」「死んでしまった方がましだ」「死んだら楽になるんじゃないか」「消えてなくなりたい」などの気持ちや考えを言います。精神科疾患に罹患することで思考機能が低下したり、現実的ではない空想がふくらんだりすることによって、実際には死ぬことなど望んでいないにも関わらず、それを望んでいる、あるいはそれしか方法がないというように、空想あるいは妄想してしまうことがあります。そのため精神科医療では、これを「希死念慮」と名付け、重大な症状として扱います。
- (解説2)修正型電気けいれん療法
- 電気けいれん療法は、頭部に電気を通すことになり、脳内に発作性(けいれん発作が生じるような)放電を発生させる治療法です。けいれん発作が精神症状を軽減するという経験・発見をもとに1938年、セルレッティとビニによって確立されました。治療効果が早く現れるため、重篤な症状が続いている方、希死念慮が改善しないなどの効果を急ぐ場合に用いられる事が多く見られます。従来は、けいれんにより骨折などの副作用が生じることもありましたが、現在では麻酔科医の協力を得て、手術室で、けいれんを必要以上に生じさせないようにして行われています。これを修正型電気けいれん療法と言います。
その他の回復期の治療
うつ病はエネルギー低下が生じる病気、特に、脳の機能低下が生じる病気です。職場復帰を目指される場合には、少しおっくうさが残っている程度にまで回復されたところで、ゆっくりとリワークを開始され、ご自身の機能回復を確認し、職場のことを思い出しながら、どんなふうに戻れそうかをイメージしてみることが、職場復帰へのはじめの一歩になります。
ものの見かたが否定的になる悪循環についても、リワークセンターの中で学ぶことができます。
カウンセリング
カウンセリングという言葉で心理療法について表現することが多くありますが、カウンセリングはロジャースという人が始めた心理療法の1つです。ここでは、広く心理療法という言葉に統一して、この営みについてお話しします。
心理療法の治療的な作用は、視野を広げる、これまでになかった視点を獲得する、思考できる範囲を広げるというところにあります。
例えば、不安が強いと「不安になったらどうしよう」ということばかりが頭に思い浮かんで、想いが不安という事柄に固定され、結果的に視野が狭まり、思考できる範囲がぐっと狭くなります。そのため、物事を考えられなくなるのみでなく、今うまく考えることができなくなっている、ということにさえ思い至らなくなっています。知的に高いはずの方でさえ、そのような状態になることが少なくありません。
症状が強く、急性の状態にある時には、ある程度、想う範囲を固定して安定を待つことが必要です。けれども、症状が落ち着いてきたら、固定されていた想いをはなれて、様々に考えを巡らすということをした方が、脳にとってのみでなく、病状の回復や再発を防ぐためにも良いのです。
そして再発や悪化をきたした場合でも、立て直しが以前よりも早くなったり、悪化の度合いを軽減したりすることに貢献します。
心理療法を始めますと、一過性には症状がひどくなることもあります。これまで、なんらかの事情によってあまり考えないようにしていたことに想いを向けることになるために、不安が増してくるのです。ですから、ある程度まで回復されてから行うことが望ましい治療法です。まだ症状から回復されていないうちに、やむをえず心理療法が必要となった場合には、状態悪化に対して保護可能な場所(例えば精神科病院、明心会であれば仁大病院)を確保して、その場所と連携をとって行います。
心理療法は費用のかかる治療法です。それはやむをえません。1回の時間は、大体45分から50分ですので、それだけ時間、専門家の時間を確保し、場所を確保し、ということで費用がかかるのです。専門家は、利用されている方の思考が広がるように促すような対話や反応ができるような訓練を受けています。保険診療内で行うことは一般的に困難で、当院ではルーセントメンタルヘルスマネジメントにご依頼しています。