舟橋なるほど。先生の恩師である笠原先生から、「大学病院との関連が無い医療機関は将来性が無い」という話を随分前にうかがった事があります。私の場合は、先生からご指導をいただきながら、実際の臨床に活かさせていただいていますが、「研究の側面を我々臨床がもう少し担っていかなければいけないのでは?」とも考えています。
岩田そうですね。ずっと大学にいれば自動的に最先端の研究を行い、知識を得られる訳ですけど、一度大学を離れて最前線の臨床に入られると、かなり意識していないとそうしたものをキャッチアップできなくなってくるかなと思います。ただ、その一方で、医学の分野でもまだよくわかっていないことだらけですから、よく言われる“リサーチマインド(探究心)”が、やはり医師にとって決定的に重要だと思います。だから、リサーチマインドを大学でしっかり学んでから臨床に出ることが、非常に重要だと思います。
舟橋岩田先生は大学の教授であり、医学部長でいらっしゃいますが、民間の医療機関やクリニックと大学病院の違いを感じていらっしゃいますか?
岩田民間の医療機関やクリニックの方々は、患者さんのために必死に取り組んでいると感じます。もちろん私たちも真剣に取り組んでいるのですが、それ以上ですね。それが、非常に大きな力だと思っています。そして、若い精神科医の教育は、専門医制度も含めてですけれど、生涯教育が必要だと考えています。ところが、医師は生涯教育のための制度が確立されていないこともあって、必ずしも十分だとは言えません。精神科領域において、それをどう取り組んでいくかが、大きな課題だと思います。そうした状況の中で、精神疾患の患者さんを最も多く診察しているのは、言うまでもなく診療所の先生です。これはもう厳然たる事実で、その次が精神科病院の先生。一番少ないのはおそらく大学病院の先生です。患者さんにとって最も最前線にいる診療所の先生方が今の日本の精神科臨床を支えているという事実は明らかだと思います。
舟橋大学病院での臨床のあり方と、病院やクリニックの診療のあり方については、岩田先生はどの様にお考えでしょうか?
岩田内科や外科の様な普通の診療科であれば、患者さんはまず地域の診療機関である開業医さんに行き、少し特殊な検査が必要になったり、あるいは手術が必要になったりすると、地域の病院に紹介されます。そして、地域の病院では難しい様な高度な治療が必要になった場合は大学病院に行く。多分そうしたステップが、厚生労働省が考えている医療の構造ではないかと思っています。それに対して、精神科に関しては、実はそうなっていないのが現状かなと思います。精神症状が重度の方が最後に大学病院に行くのではなく、おそらく単科の精神科病院が引き受けていらっしゃいます。その一方で、精神科病院の病床数は今後一気に減っていく事が予測されており、大きな転換期を迎えていると思います。
そういう中で、新しい20年後、30年後の日本の精神科医療の枠の中で、診療所の役割、専門病院としての単科精神病院の役割、そして大学病院にある精神科の役割が、理想的な形になっていけばいいのかなと、私は考えています。現状では、これは私の考えですが、大学病院は非常に高機能な診療科を多数持つ病院の中の精神科であるため、難しい合併症であるとか、非常に診断が難しい患者さんを引き受けて行っていく医療機関として、精神科臨床の中で位置付けてもらうのがいいのではないかと思っています。