尾崎 紀夫 スペシャルインタビュー

「心の病気」の治療法は変わってきている。リワークなどのサポートで職場復帰の環境を整えることが大切。 「心の病気」の治療法は変わってきている。リワークなどのサポートで職場復帰の環境を整えることが大切。

「統合失調症の遺伝子」の研究で、ノーベル賞を期待されています。

「統合失調症の遺伝子」の研究で、ノーベル賞を期待されています。

舟橋岩田先生、お忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございます。「心の病気」について、岩田先生の研究内容やお考えについてお聞きしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

岩田こちらこそ、よろしくお願いします。

舟橋岩田先生は国際的な総合学術雑誌の「ネイチャー」をはじめ、世界的に有名な雑誌や学会で論文を発表されていますが、その中で話題になっているのが、「統合失調症の遺伝子」の研究ですね。遺伝子学の視点で統合失調症の原因がわかるということを発見され、岩田先生がもしかしたらノーベル賞をお取りになられるのではないかと、私たちは大きな期待をしています。

岩田それはどうでしょうか(笑)。ノーベル賞は、歴史を大きく進展させるような医科学の業績に対して授与されるべきですから。私はそういう医科学を大きく進展させるような知見を基に、精神疾患を調べているという事に過ぎません。精神科医からすると、統合失調症の原因が明らかになったらノーベル賞級だろうと思うかもしれませんが。現代では統合失調症の原因を解明することによって、他の病気も分かるような画期的なアイデアを生み出せばノーベル賞をもらえると思いますが、そうではありません。私は、精神疾患の原因を解明したからといって、ノーベル賞をもらう人は、おそらくいないのではと思っています。

舟橋そうですか。一人の精神科医として岩田先生の今のお話をお聞きすると、本当に謙虚な方だと感じます。話は変わりますが、岩田先生の場合、ご自分の研究もそうですが、岩田先生の教室員の人たちにも研究を上手に割り振って、皆さんが本当に立派な論文や学会発表をされていると感じます。そういう教室は、私の経験では、あまり見受けられないと思うのですが、先生はどういうお考えで、ご指導をされているのでしょうか?

岩田人それぞれ、好きなことが違いますよね。「研究」というのは、ある意味で好きな事なので、好きでは無い事をさせても続きませんし、うまくいかないものです。ですから、若い人たちそれぞれの「好きな事」や「やりたい事」を聞いて、それを背後から援助しているだけのことです。私の好きな事を若い人に押し付けてやらせる様な事はしていません。

舟橋なるほど。でも、海外での学会発表や英語の論文は、岩田先生が教授になられてから飛躍的に増えていますね。100倍以上になっているのではないでしょうか?岩田先生はいつも、「国内だけではなく、海外に目を向けろ」とおっしゃっているそうですが、やはり日本の精神医療や精神医学の将来を考えると、世界を活動の場にする事が大きな力になるのでしょうか?

岩田医学は世界共通ですから、研究や活動は世界標準で進めていくべきだという信念を持っています。そして、世界最先端の研究をやろうと思えば、当然ですが、最先端の場所で、最先端の人たちと語り合うべきだと考えています。もし日本が世界最先端で追随を許さなければ、別に海外に行く必要もなく、逆に海外の人が日本に来るでしょう。しかし、残念ながら、現状では、我が国の科学技術や研究レベルは、アメリカやヨーロッパに追いついていないのが現状です。さらに言えば、中国にも抜かれ、下手するとサウジアラビアにも抜かれるのではないかと言われる状況にもなりつつあります。

舟橋そうなんですね。

岩田中国は、人口はもちろん、国民総所得でも今は日本を抜いています。さらに、科学研究の分野においても、以前は量で抜かれていただけですが、最近は質でも完全に日本を抜いてしまっている状況です。サウジアラビアも倍々ゲームで増えていて、もうすぐ日本をに追いつきかねない勢いです。日本はずっと停滞しているというのが現状です。日本自体は良い国ですが、科学研究を推進するという観点では、先進国の中でも立ち後れたポジションになりつつあると思います。日本の将来については、非常に危惧しております。そういう状況では、当然ですが、日本の中だけで話し合っていても、世界トップレベルの研究にはなりません。実際に海外に行って、そういう人達と交流していれば、自分たちの存在感や影響力がよくわかるので、研究や論文発表の場を海外に積極的に広げていこうと考えています。

舟橋なぜ日本はそんなに停滞してしまったのでしょうか?

岩田社会を進歩させる原動力は、新しいイノベーションしかありません。残念ながら、日本では大学で行う科学研究に対する投資が非常に少ない。これは、客観的事実です。科学研究に対するイノベーションを熱心にやっていなければ、立ち遅れるのは当たり前だと、私は思っています。

藤田医科大学 医学部医学部長
医学部精神神経科学教授

岩田仲生

プロフィール

1989年名古屋大学医学部卒業、1993年医学博士取得。
1994年名古屋大学医学部付属病院精神科医員、1996年米国National Institute of Health Visiting Fellow。帰国後、1998年より藤田保健衛生大学(現藤田医科大学)医学部精神神経科学講師、2002年助教授を経て、2003年より同大学医学部精神神経科学教授に就任。
2011年同大学副医学部長、2011年学校法人藤田学園 理事長席付補佐に就任。
2012年藤田保健衛生大学病院(現藤田医科大学病院) 副院長、2015年同大学医学部 医学部長、2016年同大学 副学長に就任。
日々、研究と診療に精進されており、その研究は世界的評価を受けている。特に、精神医学一般、臨床精神薬理、気分障害の短期精神療法(認知行動療法、対人関係精神療法、短期力動的精神療法)、統合失調症の総合的治療・リハビリテーション、臨床遺伝医学などを基盤として、様々な疾患への総合的治療に対応されており、精神科の新しい治療展開を模索されている。